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経皮でのオピオイドの投与も問題がないわけではないのです。どういう問題があるかは皆さんに考えていただきたいのです。フェンタニルが日本で使われるようになると、現場で苦労することになると思うのです。

−痛みに応じた量の徴量調整がしにくいことだと思います。

Andrew そのとおり徴量調整が難しい点がありますが、その研究も行われています。
−経皮ということで皮膚に接してなけれぱならないので、毛のある人、たとえば髭のある人は難しいでしょう。
Andrew そのとおりですが、ふつうは毛の生えてないところにパッチをつけますし、もちろん毛を剃ることだってできます。物理的に皮膚の表面に接着しなければならない困難性はまさにご指摘のとおりです。なかなか接着のしにくい人がいます。日本のような温暖のところはいいかもしれませんが、熱帯などで多汗の人などは非常に難しい場合があるでしょう。皮膚を通しての吸収は物理的に気温に依存しますから、高温の場合には吸収率が変わる可能性があります。これはプラズマでのモルヒネの4時間での濃度(図略)で、速効型と持続型を比較しています。血漿での最大濃度に達する時間は持続型のほうがかかるということがおわかりになると思います。フェンタニルのパッチはカーブがゆるやかで最大濃度に達するまでに9時間、10時間はゆうにかかります。フェンタニルは皮膚に残るという効果がありますから、パッチをはがしたあとでも血漿レベルでの濃度は18時間くらいは持続します。
ところが、いま指摘がありましたように、フェンタニルのパッチにはそれほど効果がないのです。しかし患者が継続しての鎮痛効果が必要な場合にはやはりフェンタニルパッチ使用のメリットはあるということになります。この文献(『Painand Shimptom Control』1996.3)はスイスのコルテ先生のグループが毎日鎮痛効果を調べた研究です。4週間の経皮のフェンタニルパッチを使った治療効果で痛みのMBASという平均スコアが下がってくるのです。痛みが十分に管理されていない場合に頓用でモルヒネを使う量がかなり小さく抑えられているという結果をみています。ここで何をやったかというと、モルヒネを救済的に使うということでフェンタニルのパッチのドーズは24時間は増量しないという方法だったのです。こういう方法で経皮フェンタニルのドーズを調整できるとしても、経皮フェンタニルには薬物動態的な問題があるということを頭に置いておいてほしいと思います。
最後にもう一つ英国での問題をお話ししておきたいのです。
2か月前に、毎年開催される緩和ケア学会で、病院の若い医師に癌患者への鎮痛剤の投与の訓練、教育をするということが取り上げられました。なぜかといいますと、ここに集まっておられる方は緩和ケアや鎮痛剤の使用に非常に関心をもっておられる専門家です。
ところが癌の痛みをもっている人すべてをみなさんのような専門家がみることは不可能なので、総合病院において痛みを訴える患者を若い医師がみるという現実を考えれば、若い医師に治療のアプローチを知ってもらうことが大切だと思うからです。私の同僚が、教育病院で若い医師を対象に、痛みの評価や管理はやさしいかそれとも困難なことかと質問したところ多くの人たちは難しいことだと答え、かつほとんどが大学で教わったことは癌患者の痛みの管理、鎮痛剤の投与に関してまったく役に立たないと答えています。若い医師の半数はWHOの3段階癌疼痛治療ラダーの話も聞いたことがないと言い、さらに聞いたことのあるという医師でも半分しか使ったことがないと言っています。私の病院で同じような調査をしても、その結果は聞きたくないという気がします。医師もナースも、痛みをどう管理するかについてはいろいろ勉強してもらわなければならないと思います。では、次にWendyから痛みの評価の話をしてもらいますが、必ずしも医学の専門家でなくてもできる、むしろ専門家でないほうがいいという面もあるということを言っておきたいと思います。
痛みの評価
Wenndy 英国では、私はクリニカルナーススペシャリストとして働いていて、病院の緩和ケア病棟での仕事が主になっています。私たちのチームは、ナースや医師に専門家の観点から緩和ケアに関するアドバイスを行い、また必要に応じて患者さんや家族にアドバイスもしています。

 

 

 

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